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【眠りと休養のためのヒント】#5 内科で処方される睡眠薬

眠れない、夜中に何度も目が覚める、朝早く目が覚めてしまう…。
こうした不眠の悩みは、誰にでも起こりうる身近な症状です。

「精神科や心療内科に行くのは少しハードルが高い」と感じる方も多いですが、内科でも不眠の相談や薬による治療が可能です。
このページでは、内科で扱うことが多い睡眠薬の種類や注意点をご紹介します。

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睡眠薬を使う前に大切なこと

不眠を訴える方の中には、睡眠環境や生活習慣の見直し(寝る直前のスマホ、カフェイン、昼寝など)で改善することは少なくありません。まず、試してみましょう。

自分の不眠のタイプを確認してください。不眠のタイプは大きく分けて、以下の3タイプがあります。病院で相談する時は、どのタイプに当てはまるか確認しましょう。2つ以上のタイプが混在していることもあります。

  • 寝つきが悪い
  • 夜中に目が覚める
  • 早朝に目覚める

眠れない原因として、うつ病や睡眠時無呼吸など他の病気が関係している場合もあります。
→ 自己判断ではなく医師に相談しましょう

内科でよく使われる睡眠薬の種類

内科で管理できる睡眠薬には以下のような種類があります。

  • GABA受容体作動薬
  • オレキシン受容体拮抗薬
  • 概日リズム調節系
  • 漢方薬

GABA受容体作動薬

脳には「GABA(ガンマアミノ酪酸)」という神経伝達物質があります。GABAは「抑制系の神経伝達物質」で、興奮した脳の働きを鎮めるブレーキ役です。
GABA受容体作動薬とは、このGABAの働きを強めて「脳をリラックスさせ、眠りに入りやすくする薬」のことです。

ベンゾジアゼピン系睡眠薬
  • 例:トリアゾラム、ブロチゾラム、エスタゾラム など
  • GABA-A受容体の働きを強める → 脳の興奮を抑えて睡眠を促す
  • 特徴:効果がはっきりして即効性がある
  • 注意点:依存・耐性、翌朝の眠気、転倒リスク
非ベンゾジアゼピン系睡眠薬(Z薬)
  • 例:ゾルピデム、ゾピクロン、エスゾピクロン
  • 同じくGABA-A受容体に作用するが、より「睡眠」に特化した設計
  • 特徴:比較的依存が少なく、翌朝の残りにくさを重視
  • 注意点:やはり長期連用は避ける

ベンゾジアゼピン系睡眠薬は以前から広く使用されていますが、依存性や耐性(効きにくくなる)などが問題となっています。

オレキシン受容体拮抗薬

オレキシン(別名ヒポクレチン)は視床下部から分泌される神経ペプチドで、覚醒維持・睡眠覚醒リズムの調整に重要な役割を果たします。
オレキシンは オレキシン受容体(OX1R, OX2R) に作用し、覚醒系神経(モノアミン系、ヒスタミン系など)を活性化させて「目を覚まさせる」働きをします。

オレキシン受容体拮抗薬はこの受容体をブロックすることで、覚醒シグナルを抑え、自然に近い睡眠を促します。

オレキシン受容体拮抗薬
  • 例:スボレキサント(ベルソムラ)、レンボレキサント(デエビゴ)
  • オレキシン受容体をブロック → 覚醒のシグナルを抑えて自然な眠気を促す
  • 特徴:睡眠の質を保ちやすく、依存や耐性が少ないとされる
  • 注意点:日中の眠気、悪夢や睡眠麻痺、高齢者では転倒に注意

概日リズム調節系

メラトニンは松果体から分泌されるホルモンで、体内時計(概日リズム)を調整する役割を持っています。メラトニンは視交叉上核(SCN)に存在する MT1受容体・MT2受容体 を介して、睡眠覚醒リズムに作用します。

メラトニン受容体作動薬はこの受容体を作動させ、体内時計を調整することで自然に近い穏やかな睡眠を促します。

概日リズム調節系
  • 例:ラメルテオン(ロゼレム)
  • メラトニン受容体作動薬→ 自然な生理的メカニズムに近い睡眠導入作用
  • 特徴:翌朝の眠気や認知機能低下が少なく、依存や耐性が少ないとされる
  • 注意点:効果は穏やかで即効性に乏しい、睡眠リズムの改善や高齢者に安全に使いたい

漢方薬

漢方薬は、「不眠そのもの」よりも「体質・不眠の背景(ストレス・虚弱・イライラなど)」に合わせて処方されます。その効果は穏やかで、継続して飲むことで改善が期待できます。

抑肝散(よくかんさん)
  • 適応タイプ:イライラ・神経が高ぶって眠れない、不安・緊張が強い
  • 特徴:気分を落ち着けて眠りやすくする。高齢者の不眠にもよく使われる
桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)
  • 適応タイプ:不安が強く、動悸や緊張で眠れない
  • 特徴:体と心をしずめる方向に作用。男性の不眠や更年期にも用いられる
加味逍遥散(かみしょうようさん)
  • 適応タイプ:女性、更年期、不安や抑うつ傾向とともに不眠がある
  • 特徴:ホルモンバランスや自律神経の乱れに関連する不眠に適する

他にも不眠に効果がある漢方はあります。

これらの睡眠薬を使用しても睡眠がコントロールできない場合は、精神科などの専門医療機関に紹介となります。

薬を使うときの注意点

睡眠導入薬を内服する際には、以下のことに注意しましょう。

  • 他の薬との飲み合わせ確認が必要
  • 必ず就寝直前に内服し、飲んだら横になる(薬が効くとふらふらすることがあり、転倒のリスク)
  • お酒と一緒に飲まない
  • 翌朝の眠気・ふらつきが出る場合は、継続するか医師に確認
  • 長期連用は医師の管理下で必要な場合のみ

受診をおすすめするタイミング

以下のような「不眠」の状態が続いている場合は、医療機関に相談しましょう。

  • 自己判断で市販の睡眠薬を長期使用している
  • 2週間以上続く不眠
  • 日中の仕事や家事に支障が出ている
  • 気分の落ち込みや、強いいびき・呼吸停止がある

よくある質問

睡眠薬を使うと認知症になりやすいと聞きました。本当ですか?

一部の古いタイプの睡眠薬(特にベンゾジアゼピン系)を長期間・高用量で使うと、認知機能に影響する可能性が報告されています。必ずしも「認知症になる」というわけではありません。

現在は、より安全性が高い薬や少量での使用、短期間での治療が基本です。医師が症状や年齢に応じて適切に管理しますので、自己判断で飲み続けず、必ず医師と相談しながら使うことが大切です。

市販の睡眠薬との違いは?

市販薬は成分や効果が限定的で、眠気の副作用を利用したものが多いです。医療用の睡眠薬は作用時間や種類が選べ、安全性に配慮して処方されます。

睡眠薬は一度使うとやめられなくなりますか?

依存のリスクはありますが、医師の管理のもとで必要な期間だけ使えば問題ありません。むしろ自己判断で長期使用する方が危険です。

睡眠薬で翌朝ぼんやりしませんか?

作用時間や用量によって調整が可能です。症状や生活リズムに合わせて、翌朝の影響が少ない薬を選びます。

高齢でも使えますか?

高齢の方は転倒リスクがあるため注意が必要ですが、少量から慎重に使えば安全です。

『眠りと休養のやさしい話』シリーズ

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