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心房細動の治療について

心房細動を有する患者さんは、若い方から超高齢者まで年齢層が広く、心臓になんらかの病気を持っている方から全く持病のない方までいらっしゃいます。
次に示すような治療内容を、それぞれの患者さんに合わせて選択していきます。
脳梗塞を予防する
心房細動により日常生活で大きなダメージを受けうるものの一つが脳梗塞です。心房細動からの脳梗塞(心原性脳梗塞)は重症になることが多いため注意が必要です。
心房細動を指摘されたら、まずは脳梗塞のリスクについて評価し、必要に応じて予防を行います。抗凝固薬が脳梗塞予防として使用されます。
第一選択は抗凝固薬
心房細動の脳梗塞予防で、第一に選択される治療法は抗凝固療法です。抗凝固薬と呼ばれる、血液が固まりにくくする薬を使って心房に血栓ができるのを予防します。
抗凝固薬の種類は以下のようなものがあります。
以前から使用されている抗凝固薬
- ワーファリン
直接作用型経口抗凝固薬(DOAC; direct oral anticoaglants)
- プラザキサ®
- イグザレルト®
- エリキュース®
- リクシアナ®
最近では、主に直接作用型経口抗凝固薬が勧められています。
その理由は、ワーファリンと比べて使いやすい、脳梗塞の予防効果はワーファリンより優れている、懸念される出血に関してはワーファリンと同等、などが挙げられます。
抗凝固薬以外の脳梗塞予防
抗凝固薬がどうしても飲めない場合や、飲んでいても脳梗塞になる場合には左心房内に血栓ができにくくする方法を検討します。
心房細動中に血栓ができるのは、左心耳と呼ばれる袋状の組織です。左心耳に対する治療を検討します。左心耳をプラグで塞ぐ左心耳閉鎖術や、左心耳を外科的に切除する左心耳切除術があります。


カテーテルを使用して心臓の内側から左心耳の入り口を塞ぐようにプラグを挿入する方法です。
左心耳内に血栓ができても、飛ぶ出せないので脳梗塞・塞栓症が起こりにくくなります。


外科的に心臓の外から左心耳を切除する方法です。
他の心臓手術と併せて行われることもありますが、単独で胸腔鏡を使って低侵襲で行われる方法もあります。
心房細動を止める治療
心房細動による自覚症状や心不全が合併している場合、心房細動そのものに対する治療を行います。
心房細動のまま心拍数の調整を行う治療(レートコントロール)と積極的に正常の心リズムを維持する治療(リズムコントロール)があります。
心房細動により起こりうる問題がレートコントロールでは解決できない場合、リズムコントロールを行います。
積極的に正常の心リズムを維持するための治療です。リズムコントロールするためには、「心房細動を止め」て「心房細動の再発を予防する」ことが必要です。
リズムコントロールのメリットと限界
メリット
正常のリズムが維持できれば、心房細動によるいろいろな問題を解決することができます。
- 生活の質(QOL)が改善する
- 心不全が減る
- 脳梗塞が減る可能性がある
ただし限界もある
リズムコントロールの限界は、必ずしも正常の心臓リズムが維持されないことがある、という点です。アブレーション治療まで行っても、期待される効果が得られないことがあります。
「心房細動を止める」方法は以下のような方法が用いられます。
電気ショック


心房内の乱れた電気信号を強い電気刺激で停止させます。
心房細動が停止し、自分のリズムを取り戻します。
痛みを伴うため、鎮静して行われます。
まれに、心房細動が止まらないことがあります。
お薬で止める


心臓の電気興奮に抑制的に働く薬を使用します。
効果は限定的です。
しばらく待ってみる
(自然に止まる)発作性心房細動の場合は、自然に止まることが多いためしばらく待ってみることもあります。
ただし、その間に心拍数が多くて症状がきつい場合は、心拍数をコントロール(レートコントロール、後述)を行います。
再発を予防する
心房細動を止めるなら、再発を予防することも同時に行う必要があります。再発を予防するには、以下のような方法があります。
- ライフスタイルの見直し
- 薬(抗不整脈薬)で予防
- アブレーション治療で予防
ライフスタイルの見直し
心房細動は、不整脈にとって良くない生活習慣をきっかけに発症することも少なくありません。ライフスタイルを見直すことで、心房細動の頻度が低下します。
正しい生活習慣は他の病気の出現も抑えてくれます。まずはライフスタイルをきっちり見直す必要があります。
- 適度な運動
- ストレスを管理しよう
- 睡眠をしっかりとる(睡眠時無呼吸の評価も)
- アルコールを減らす・やめる
- バランスの良い食事
- 喫煙を減らす・やめる
不整脈を抑える薬(抗不整脈薬)
心房細動の再発を抑えるための薬です。効果は限定的です。効果があっても、だんだん効かなくなる方もいます。
抗不整脈薬には特有の副作用があり、使用は慎重に行います。
アブレーション治療
心房細動の再発を強力に予防することができます。アブレーション治療の適応とされた患者さんの8〜9割は、心房細動の再発が抑えられます。
低侵襲のカテーテル治療です。*ただし、アブレーション治療では治療が難しい心房細動もあります。
最近では、アブレーション治療の役割が大きくなっています。以前よりも安全かつ効果的に治療が行われる様になりました。抗不整脈薬は副作用の懸念から漫然と内服し続けることは避けたほうが良いでしょう。
心房細動のまま心拍数を調整
レートコントロール(rate control)では心房細動のまま心拍数(レート)の調整を行います。
心房細動で自覚症状や心不全の悪化がある場合、心拍数が多いことが原因である可能性があります。
心房内では細動が続いていますが、心房から心室へ電気を伝える中継所(房室結節)の電気の伝わり方を弱くすることで心室の心拍数を抑えることができます。
- β遮断薬
- カルシウム拮抗薬
- ジギタリス製剤
薬を組み合わせて使っても心拍数が制御できず身体的な状況が良くない場合、房室結節にアブレーション治療を行うこともあります。
徐脈に対応する
心房細動に関連して、心拍数が急激に減ることがあります。以下のような状況が挙げられます。
- 洞不全症候群
心房細動が停止した時に、自分の脈拍の回復が遅くてしばらく心臓が止まった状態になる。
- 徐脈性心房細動
心房細動が持続しているが、心拍数が少ない状態。
ペースメーカー治療
脈拍が遅い=心室の電気信号が少ない、という意味になります。心室の電気信号を補い器械がペースメーカーになります。脈拍が遅いせいで何らかの症状があるようでしたら、ペースメーカー治療の適応になります。
アブレーション治療
心房細動があることで徐脈になることがはっきりしている場合は、心房細動のリズムコントロールをすることで徐脈が是正される可能性があります。
抗不整脈薬でのリズムコントロールは逆に徐脈が助長されますので、使用する場合は慎重に検討する必要があります。
アブレーション治療により心房細動が制御できれば、徐脈の心配は減ります。ただし、アブレーション治療は100%有効とは言い切れないため、アブレーション後の再発が生じた場合は徐脈の問題が残ることを知っておく必要があります。