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心房細動による脳梗塞のリスク

心房細動になると脳梗塞発症リスクが5倍になる
心房細動になると脳梗塞発症リスクが5倍になると言われています(Stroke 1991;2:983)。
心臓の問題が、なぜ脳の問題につながるのでしょうか。心房細動と脳梗塞の関係を説明します。

心房細動になると心房はブルブルふるえているだけで、きちんと収縮しなくなります。
その結果、心房の中の血液がよどみます。

血液はじっと置いておくと固まる性質があります。
心房の中でよどんだ血液は塊(血栓)になることがあります。
特に、左心耳(さしんじ)と呼ばれる左心房にくっついている小さな袋の中に血栓はできやすいです。

左心耳にできた血栓は、そこにじっとしておけばいいのですが、ぽろっと剥がれてしまうと大変です。
血液の流れにそって、心臓から全身へ向けて拍出されてしまいます。

血栓が溶けないまま血流に沿って全身の動脈に流れ着いたら、そこの動脈の血流を遮断してしまいます。
動脈の血流が遮断されると、栄養していた臓器が壊死(梗塞)します。
脳の動脈に到達した時に、脳梗塞になります。
比較的大きな血管が遮断されることが多いため、麻痺などの神経症状は重篤となります。
心房細動による脳梗塞は重症になることが多い
脳梗塞には、「ラクナ梗塞」「アテローム血栓性脳梗塞」「心原性脳梗塞」があります。「ラクナ梗塞」や「アテローム血栓性脳梗塞」は生活習慣病との関連が深く、動脈硬化が主因となります。
心房細動により生じる脳梗塞は、心臓の中に血栓が作られて脳へ流れ着くことで発症し「心原性脳梗塞」と呼ばれます。
心原性脳梗塞は、特に障害の程度が大きいことが知られています。
約4割に重症の後遺症

上の図は、2001年8月から2006年6月までに九州医療センターに入院した心房細動を伴う発症 7 日以内の急性脳梗塞連続 236 例を検討したデータです。退院時のmodified Rankin Scaleの内訳です。
脳梗塞を発症した場合に、どの程度の障害が残って日常生活に影響するのかを示す尺度として、modified Rankin scaleが使用されます。
脳卒中発症後の生活自立度の尺度 | modified Rankin score
0 | まったく症候がない |
1 | 症候はあっても明らかな障害はない:日常の勤めや活動は行える |
2 | 軽度の障害:発症以前の活動がすべて行えるわけではないが、自分の 身の回りのことは介助なしに行える |
3 | 中等度の障害:何らかの介助を必要とするが、歩行は介助なしに行える |
4 | 中等度から重度の障害:歩行や身体的要求には介助が必要である |
5 | 重度の障害:寝たきり、失禁状態、常に介護と見守りを必要とする |
6 | 死亡 |
いろいろな報告をまとめますと、心房細動から脳梗塞を起こすとmodified Rankin score 4点以上の後遺症を残す方が3〜4割程度に認めます。
歩行に介助が必要であったり、寝たきりになってしまう方が4割程度ということです。命に関わる可能性もあります。
心原性脳梗塞は、前兆なく突然発症し一気に生活を変えてしまいます。
麻痺以外にも認知機能の低下、記憶障害、性格の変化、抑うつ気分や失語のような脳梗塞の症状があります。
心房細動による脳梗塞のリスク
心房細動になった場合に、全員が脳梗塞になるわけではありません。
心房細動で脳梗塞のリスクがある場合は、脳梗塞の予防が必要になります。特に、以下のような要素を持っている方は、心房細動になった際に脳梗塞のリスクがあがることが報告されています。
心房細動治療の第一歩。脳梗塞リスクの評価です。最も有名なリスク評価はCHADS2スコア(チャズ スコア)と呼ばれるものです。
以下の項目がある場合、心房細動に関連した脳梗塞のリスクが上がります。点数が上がるほどリスクは高くなります。1点でもあれば脳梗塞予防を考慮しましょう。
項目 | 点数 |
---|---|
心不全・心機能低下がある | 1 |
高血圧がある | 1 |
年齢が75歳以上である | 1 |
糖尿病がある | 1 |
脳梗塞や一過性脳虚血発作がある | 2 |
あなたの点数は何点ですか?計算してみましょう。
CHADS2スコア以外のリスク因子もわかってきています。
CHADS2スコア以外にも脳梗塞発症リスクがあります!
- 年齢 65歳以上
- 腎臓の機能が落ちている
- 何らかの心筋の病気(心筋症)
- 進んだ動脈硬化(心筋梗塞、大動脈のプラーク、下肢の動脈硬化)
- 持続性の心房細動
- 体重が少ない(50kg以下)
- 左心房が拡大している
CHADS2スコアやそれ以外のリスクが1つでもあれば、脳梗塞の予防を考慮しましょう
2024年のガイドラインでは、HELT-E2S2スコアによる脳梗塞リスク評価も示されるようになりました。
