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【心房細動のすべて】#3 心房細動は遺伝するのか?

心房細動の患者さんから、「心房細動は遺伝するのか?」と聞かれることがあります。一部では遺伝性(ある程度の確率で親から子へ継承される)が指摘されていますが、多くの患者さんでは心房細動が遺伝する病気とは言えません。
ただし、家族性(家族内で罹患していことが多い)は指摘されています。現時点でわかっていることについて解説します。
心房細動の家族性はある
アメリカの疫学調査であるフラミンガム研究※によると、両親のどちらかもしくは両方が心房細動を持っていた場合に子供が75歳未満で心房細動になるリスクは両親がどちらも心房細動ではない人の3倍以上と報告1)しています。
つまり、親が心房細動だと子供に心房細動発症のリスクがあることになります。

また、興味深いことに近親者で心房細動を発症した年齢が若いほど心房細動発症のリスクが高くなることも報告2)されました(図参照)。
この報告を参考にすると、親が50代で心房細動を発症していたら、子が心房細動になるリスクは2倍程度になることになります。
※ フラミンガム研究
1948年に米国のボストン郊外にあるフラミンガム町で、死亡の原因として多かった心血管病の原因を検索するためにフラミンガム心臓研究という疫学研究が開始された。健康な男女 5,209人が登録され追跡された。心血管病を発症した患者さんで、血圧やコレステロール値が高いことがわかった。その後も心血管病のリスクになる多くの原因が報告された。
オリジナルの研究に付随していくつかの疫学研究が行われている。フラミンガムオフスプリング(子孫)研究では、オリジナルの研究に参加した住民の子供 5,124人が対象となっている。
1)JAMA. 2004;291(23):2851
2)JAMA. 2010;304(20):2263
ご家族に心房細動の方がいたら、心房細動の発症に注意しましょう。特に、若くして心房細動を発症している方がいた場合はよりリスクが高くなります。
遺伝子レベルの話
これまでの研究から心房細動の濃厚な家族性をしめす家系があり、家族性心房細動と呼ばれています。家族性心房細動に至る遺伝子の異常がこれまで報告されています。
専門的になりますが、ナトリウムチャネル、カリウムチャネル、カルシウムチャネルなどに関連する遺伝子の変異が心房の電気現象に影響して家族性心房細動となっているようです。
ただし、家族性心房細動ではない多くの心房細動患者さんの遺伝子異常について現時点でははっきりしたものはないようです。そのため遺伝子検査で心房細動のリスクを評価することは難しいようです。
家族が心房細動ならどうしたらいいの?
先述のように家族に心房細動があり、特に若くして発症しているような場合は注意が必要です。具体的には、心房細動発症の原因となりそうなライフスタイルの改善や生活習慣病の管理を行います。
さらに、検脈や定期的な心電図、またはスマートウォッチなどで心房細動が発生していないかを定期的に確認しましょう。症状がない心房細動のために脳梗塞となるリスクがあるためです。
- 心房細動が発生しないようにライフスタイルを見直す
- 定期的に脈をとったり、心電図をとったりしましょう。
健康を維持する行動をとりましょう
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